トヨタのセールスマンの話 -【09】2015/01/08

夏の暑い日などは、南の地方に売りに行ったりすると、やはり苦しい時もあるわけです。
和歌山の方へ行った時には、暑くて汗びっしょり、Yシャツもびしょびしょになりました。
その時、窓が開いた部屋で昼寝をしている男がいたんです。
何かに足を乗っけて、扇風機の風をブワーッと浴びて。
それを見た時にムカッと来て、よっぽど窓から入って殴ってやろうかと思いました。
しかし、それはボクシングの苦しさから見ると、まだ大したことはないと思えたんです。

振り返ってみれば、私に火がついたきっかけは家が火事になったことが一つですが、
大事な体験がもう一つあります。

この話は今まで何度も話し、録音もされていますが、
その音声は人づてにダビングを重ねられ、全国に飛び火したぐらい結構有名になった話です。
ある中華料理屋さんの奥さんの所に、宝石を売りに行った時のこと。
一生懸命セールスしていたら、今にも売れそうになりました。
「あら、いいわね」と、宝石を手にとってくれていました。
もうそろそろ買い信号になっているのが、私には分かっていました。
そんな今にも売れそうな時、ピンポーンとドアチャイムが鳴ったのです。

奥さんが「どなた?」と出たところ、「トヨタのY田です」と、トヨタ自動車のセールスマンが入ってきました。
奥さんとそのトヨタ自動車のセールスマンは知り合いで、とても仲がいいわけです。
こちらは初対面です。
そのトヨタ自動車のセールスマンが私の隣にポンと座りました。
でもこちらが先客ですから、一生懸命宝石のセールスを続けました。
すると、そのセールスマンが私に「ちょっと名刺を見せてくれないか」と言うんです。
私の名刺を見て、「ふーん。○○宝飾?聞いたことねえな」と言うのです。
「奥さん、宝石はもっと信用のある所から買わなきゃだめですよ。
私のようなしっかりした会社だったら間違いないでしょう?
デパートとか、ちゃんと信用のある所から買ったら、何かあった時にもいいじゃないですか。
こんな石ころか何か分からないものを、どこの馬の骨か分からない人から買って、何かあったらどうするんですか」と言い始めました。

明らかに営業妨害です。
そして、それぐらい言われると、奥さんも、もちろん私と初めて会ったので、私という人物が全然分からないから、
「そう言われればそうね。また今度にするわ」と、手に持っていた宝石を冷たく置かれました。
つい先ほどまで買いそうだったのに、奥さんの顔がサーッと冷めていくのが見えました。
もう買ってくれないという顔になりました。
トヨタのセールスマンに腹が立って、私は危なかったです。
彼もセールスマンなのに、人のことを馬の骨だ、石ころだと。
私はまだ若かったですから、危なかったです。
玄関で待っていて、ぶっとばしてやろうと思ったのです。
それはもうカッカ来てました。

でも、私はその時に、セールスになった一つのきっかけを思い出しました。
セールスを始めたのは、お金を貯めることだけが理由ではないわけです。
人格を磨くことなんです。
人間性を高めるというテーマがありました。
けんかをするというのは、人間的にまだ未熟だということです。
それぐらいは分かっていますから。

私はその時に、心を切り換えました。
そして、私の営業妨害をしたこのセールスマンに、ある事をしてもらおうと考えつきました。

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