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22.一人立ち

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こんにちは、佐藤康行です。

三回の研修を終えてから約半年が経った翌年の六月、私のもとにあの河野本部長から久し振りに電話が入った。河野の声は明るく弾んでいた。
「先生、実は昨日本社で全社大会があったんですけど、うちの支社が2001年度の最優秀支社として表彰されたんですよ!
実績率だけじゃなくて、売上でも一位になったんですよ!実績率なら間違いなく一位は獲得できると信じていたんですけど、まさか売上まで一位になれるとは思ってなかったんで、もう嬉しくて嬉しくて…」
彼の報告を聞いているうちに、あのみんなの顔が思い出され、私も思わず胸が熱くなってしまった。そして、彼らが立派な成績を残してくれたことが、我がことのように嬉しかった。
私は、たまたま一週間後に、上田で講演をすることになっていたために、その足で長野に立ち寄ることを約束して電話を切った。
当日、河野はわざわざ長野駅まで迎えに来てくれた。彼は私を見つけると満面に笑みをたたえ、握手を交わすと急いで私を車に乗せた。車は支社のある目抜き通りとは反対の方角に進んで行った。
「先生、覚えてますか、この前お連れしたお店?あそこでみんな先生がいらっしゃるのを待ってますから!」
料亭には、支社長を始め、社員たちが十数人集まっていた。中には平山や斎藤、鈴木といった馴染みの顔もあった。一番隅の席には中本もいた。しかし、上村の姿はそこにはなかった。そのことを察知して河野が教えてくれた。
「先生、上村君が先生には会いたがっていたんですけどね、彼は今札幌に出張中なんですよ」
「えっ、札幌?」
「そうなんですよ。なにせ彼は今、研修の先生ですから。本社からの指令で、この一ヶ月間は全国の支社を講師として回ってるんですわ。彼は今や我が社のスターなんですよ!」
「ええっ!…」私は、思いもよらない上村の出世に言葉が出なかった。
「あれから本社の研修担当が、『長野事業所を全国の模範店にしたい』と言ってきて、研修用のビデオを作りに来たんですよ。それで全社で一位になった上村君を講師にして、そのビデオを見せながら全支社で研修をやってるんですよ」
「先生、これが研修用の資料ですよ」
平山が手渡してくれた資料の裏表紙には、上村の顔写真が載っていた。写真の下には、“2001年度 売上個人成績第一位 長野支社長野事業所係長 上村龍二”とあった。その下には、彼のコメントが掲載されていた。
「へえー!」私は目を真ん丸くした。渡辺支社長が笑顔で言った。
「彼を平社員から係長に一気に昇格させたんですよ。それも異例中の異例で、前例はなかったらしいんですけど、思い切った人事をしていこうと思いましてね。…それと、今本社で検討中なんですけど、来年度からはひょっとしたら人事制度が変わるかもしれないんですよ。
これから販売部隊を強化していくに当たって、今までの一般職とは別に営業職というのを作って、その営業専門の人間にはインセンティブを設けようと。私から提案したんですけど、これが通れば販売部隊はさらに強力になると思うんです」
支社長が私のアドバイスを忠実に実行してくれていることに驚いた。今度は河野が私にお酌をしながら言った。
「実は先生、私もあれから週に一回は飛び込みをやっているんですよ」
「えっ!そうですか!」私はまたまた驚いた。
「ええ。実は何回か上村君に同行してもらって指導してもらいましたよ。彼から随分叱られましたけど。
『本部長ダメじゃないですか!そんなんじゃ新人にも負けちゃいますよ!』とか言われてね。なかなか骨の折れる仕事だというのがよくわかりましたよ。
でもそんなことをやってきたお陰で、彼も私のことを認めて立ててくれるようになりましたしね。それがみんなが私の言うことを忠実に実行してくれた一番の要因じゃないですかね…」
河野はこの半年を振り返るようにして言った。
「それから…、」彼は私にいろんなことを話したくて仕方がないようだった。
「先生が言われていた通り、勉強会も週に一回、月曜日の午前中に全事業所でやらせるようにしまして、それがまた良かったですね。その勉強会の時に出てきた内容をレポートさせてるんですけど、これが素晴らしい資料になってるんですよ。
それを今平山さんがまとめてくれているんですけど。そうそう…、平山さんには営業本部の販売促進課に来てもらって、マニュアルとか販促の資料を作ってもらったり、営業マンをサポートする仕事をやってもらっているんですよ。
平山さんがちょうど私たちと営業マン一人一人のパイプ役みたいになってくれて、それでものすごく助かってるんですわ」
どうやら私の手を離れてからも、彼らの組織は全てがうまく回っているようだった。
私は、私が指導した人たちが発展していくのを見て、本当に心から嬉しくなった。
すると、それまで静かにしていた中本が、何かを大事そうに抱えて近づいて来た。
「よう!元気そうだな!どうだ、がんばってるか?」
「先生、これを先生に受けとってもらいたいんです…」そう言って彼が私に手渡してくれたのは二枚の表彰状だった。一枚は“個人成績第一位”と書かれた上村のもので、もう一枚は“個人成績第五位”と書かれた中本のものだった。
「おう、五位!すごいじゃないか!…えっ!これを?」
「これは先生に取らせてもらったものですから…。それにこれに奢ってしまったらそれまでですから。いつも初心に戻ってやろうと思ってるんです」
私は中本の言葉に思わず涙を抑えることができなくなった。

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佐藤康行です。今日も最後までご覧頂きありがとうございました。 今回の記事は2002年に出版の書籍をもとに記事にしております。 明日も20時に更新いたしますので、ブログをお楽しみに!
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